2008年08月号

【企業探訪】[11]「不正事例①-小口現金」

「皆さん、こんにちは!! 監査第6部の明智です。今回の研修では、皆さんに不正の事例を参考に、どのような内部統制を構築すればよいのかを考えて頂きます。そろそろ本格的に内部統制監査が始まりますので、自分が行くクライアントを想像しながら考えるとよいでしょう。それでは、早速ですが・・・。」

ここは、しあわせ監査法人の社内研修が行われている会議室。内部統制監査を控えたこの時期、明智は、入社1~3年目を対象とした研修の講師を任されることになったのである。
「では、まず、簡単なところから、現金・預金にまつわる不正からいきましょう!! 事例としては、『ある会社の経理担当者が、少しずつ、かつ、何度にもわたり小口現金を払い出しては、自分の金として流用し、会計上は、架空の経費などで処理していた。何年後かに税務調査によって架空経費の存在が明るみになり、経理部長の現金流用が発覚した。』ということですね。この不正事例について、どのような内部統制が望まれるでしょうか? それでは、当てます。そこのあなた、どうでしょうか?」
「はい、この事例は、経理担当者による小口現金の横領というものですが、小口現金の取り扱いが経理担当者1人に委ねられていたという点に問題があったと思います。したがって、実際の小口現金の取り扱いは経理担当者に任せるにしても、上司がその業務を承認することが必要だったと思います。」
「その通りですね。他に何か問題はありますか?ではそこの君。」
「はい。そうですね~、『会計上は、架空の経費などで処理』とあるので、この小口現金の担当者が帳簿の記帳も任されていたのではないでしょうか?それがいけなかったのだと思います。」

「そうですね。これもその通りです。では、この事例での問題点と解決策をまとめてみましょう。まず、横領されやすい現金の管理を全て1人の経理担当者に任せていたという点に問題があります。もし、この会社の経理部署にこの経理担当者以外に小口現金を取り扱う人がいたり、小口現金の払い出し時に『申請書』などの書類によって承認活動が行われていれば、易々と現金の横領はできなかったでしょう。また、現金の取扱者と帳簿に記帳する担当者を分けることや定期的な現金実査も重要となります。この事例でのポイントをまとめると、
①現金の取扱者とは別の承認者を設置する
②現金の取扱者と記帳担当者を分ける(もしくは、記帳時の仕訳入力に対して上司が承認する)
③定期的に現金実査を行う、という3つが挙げられます。」

会社の小口現金、大丈夫ですか?・・・

【登場人物】
明智(明智龍之介)― しあわせ監査法人在籍8年目の公認会計士。現場では主に主査(いわゆる監査の現場監督者)を担当している。

2008年07月号

【企業探訪】[10]「ストック・オプションの費用はいつ測定すべき!?」

「明智さん、会計監査中申し訳ないが、会計処理について相談してもよろしいですか?」
「あっ、どうも監査役!! 最近ご無沙汰していますね。もちろんいいですよ! あぁ~、もしかして、ストック・オプションのことですか?」
「むっ、さすがですね。明智さんには隠し事はできないな~。ストック・オプションの会計処理については、基準(※1)が出てしまっているので、弊社としてももちろんそれに従わなければならないのですが、どうも、その処理が要領を得ないのですよ・・・。明智さんはどう理解しているのですか?」
「ん~、そうですね。ストック・オプションの会計処理を理解するうえでは、基準のいう『ストック・オプションの対価性』を整理する必要がありますね。つまり、『会社は、ストック・オプションを付与された従業員から付与の対価として追加的な労働サービスを提供され、そのサービスを消費している』と。そして、『サービスを消費している以上、会社は費用計上すべきである』というわけです。」
「そうですね。確かに、弊社で付与しているストック・オプションも一種の報酬的な側面もありますし、従業員のモチベーションアップも1つの狙いですので、なんらかの対価性があることは感じています。しかし、その費用化の金額算定に疑問を感じるのですよ。基準では、費用化金額の算定には、『ストック・オプションの付与時』における公正な評価単価のみを使えといっていますが、ストック・オプションの単価なんてものは株価の変動に応じて常に変動していますでしょ。ストック・オプションの費用化を、『追加的労働サービスの消費』と捉えているのであれば、費用化金額の算定には、その時々のストック・オプションの公正な評価単価を用いるべきだと思うのです。現に、ストック・オプションの付与によって会社が受ける従業員からの労働サービスは、ストック・オプションの権利行使までの期間に提供されているのであって、付与時に一気に提供はされないでしょ。」
「監査役、おっしゃる通りです。私もそう思います。ただ、よ~く考えてみてください。もし、監査役のおっしゃる労働サービスの消費を厳密に会計処理に反映させようとしたらどうなりますか。」
「・・・それは大変なことになりますね。」
「そうです、これを会計処理しようものなら、ストック・オプションの価値を毎日算定して、毎日仕訳伝票を起票しなければならなくなります。」
経理の皆様、それはちょっときついですよね。

【登場人物】
明智(明智龍之介)― しあわせ監査法人在籍8年目の公認会計士。現場では主に主査(いわゆる監査の現場監督者)を担当している。

※1 「ストック・オプション等に関する会計基準」(企業会計基準第8号)及び「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第11号)

2008年06月号

【企業探訪】[9]「受注損失引当金の甘い罠(後編)」

「・・・と、言うわけさ~、神宮寺。」
「ふ~ん。で、わかったのか? 『受注損失引当金が状況を一変させた』っていう意味が。」
「いいや、皆目検討付かず・・・。はぁ~、それよりも、あの後、今井さんと一緒に帰ろうと思ったのにな~、あぁ~・・・。」
「何、ブツブツ言っているんだ。俺はわかっちゃったぜ!!」
「・・・途中で帰っちゃうんだもんな~、今井さん。・・あっ、何?わかったの!?」
「あぁ、しょうがないから意気消沈しているお前に特別に教えてやるよ。例えば、ここに翌期に納品されるAとBというプロジェクトが2つあったとして、2つとも当期末現在、既に不採算プロジェクトに陥っていたとしよう。つまり、期末日現在、既に予定販売価額よりも仕掛品残高の方が大きくなってしまっているというわけさ。ここで、受注損失引当金を計上しないとなると、AもBも翌期の販売時に販売損失が一気に計上されるよね。でも、仕掛品残高のうち、予定販売価額を超過する部分を引当金として計上するとなると、そこで一種の損切りができてしまうというわけよ。わかる?」
「んん・・?? それが何とどう関係があるわけ?」
「はぁ~、わからんやっちゃな~。例えば、販売時にAから利益が出るように、Aの原価の一部をBの原価に付け替えるとするだろ。そうすると、当期末には、Aからは多額の受注損失引当金が発生するけど、損失の発生はそれきりでしょ。Bに関しては営業評価が下がるかもしれないけど、翌期には、Aから販売益が出るから、それでまんまと汚名を返上できるというわけさ!! つまりっ!! AとBの両方から販売損失が出るとなると『何やっているんだ、お前は!! 2つも不採算プロジェクトを出しやがって!!』ってなるけど、受注損失引当金という損切りの方法を使えば、『Bは不採算でしたが、Aではなんとか採算が取れました!!』って言えるよね。」

「うわっ、何それ!! そんなからくりがあったなんて。受注損失引当金の計上がプロジェクト担当者に原価付け替えの動機を与えてしまうとは~。・・・んっ、待てよ。でもAとBから発生する損益をトータルで見た場合、結局、P/Lへの影響は変わんないよね(※1)。期ズレは当然するけど。」
「まぁ、会計上はそうだけど、営業評価の印象は全然違うと思うよ。」
「なんだか切ないな~。そういえば明智さんも切ない顔してたもんな~。はぁ~。」
焼酎をちびちびとやりながら、小林君は、ふと、明智の顔を思い浮かべるのであった。

【登場人物】
明智(明智龍之介)― しあわせ監査法人在籍8年目の公認会計士。現場では主に主査(いわゆる監査の現場監督者)を担当している。
小林 (小林新一) ― しあわせ監査法人在籍1年目の新人会計士。
神宮寺(神宮寺幸助)― こころ監査法人在籍1年目の新人会計士。小林とは同期の合格者で、実務補習所では同じ班に所属している。

※1 例えば、Aプロジェクト(予定販売価額200、期末日現在の仕掛品残高210)の製造原価の一部(30)をBプロジェクト(予定販売価額100、期末日現在の仕掛品残高105)に付け替えた場合、Bでは受注損失引当金が35(100-(105+30))計上され、翌期以降、Aからは20(200-(210-30))の販売利益が計上されます(Bは収益トントン)。ここで、AとBから発生する損益をトータルで見た場合、受注損失引当金を計上するしないに関わらず、15の損失が発生することになります。

2008年05月号

【企業探訪】[8]「受注損失引当金の甘い罠(前編)」

「今井さん、ちょっとお時間よろしいですか?」
「あら!? 小林君じゃないの!! どうしたの? 明智君にいじめられたの?」
「いえ、今日は、監査で訪問しているクライアントの件でちょっと・・・。」
時を遡ること1日前、明智と小林君が参加する監査チームは、ある会社の監査の過程で仕掛品の製造原価が付け替えられている事実を発見してしまったのである。
「部長、これは大変申し上げにくいことですが、このAプロジェクトの原価の一部をBプロジェクトの原価に付け替えていますよね? 正直におっしゃって頂けませんか?」
「・・・そうです、明智さんのおっしゃる通りです・・・。この際なので、すべてを申し上げますが・・・・」
明智の問いかけに心の箍がはずれたのか、経理部長は堰を切ったようにしゃべり始めた。
「弊社では、これまでにも、しばしば製造原価の付け替えをやっておりました。でも、そのほとんどが、プロジェクト担当者が、調子の悪かった期の営業成績をなんとかうまく見せるために、ほそぼそとやっていたことなのです。金額的にもあまり大きくなかったこともあって・・・。会社のためにと半ば黙認していたことも事実です。でも、でもね、明智先生!! 受注損失引当金(※1)がこの状況を一変させたんですよ!! 」 「(どういうことだろう??)」
その時、小林君には、「受注損失引当金が状況を一変させた」という言葉の意味がよくわからなかったようです。

「その後、ちょっとした沈黙になっちゃって。それからしばらくして、うちのマネージャーがやって来たので、その続きは別室で行われることに・・・。」
「ふ~ん、そう。それで、『受注損失引当金が状況を一変させた』という意味が気になるというわけね。」
「そうなんです。いままでの製造原価の付け替えは、いくつものプロジェクトを使った非常に少額なものだったらしいのですが、今回のものは、1つのプロジェクトに多額の原価を付け替えているんですよ。でも、『原価の付け替えが1つのプロジェクトに集中する』ということと『受注損失引当金の計上』とがうまく結びつかないんですよね。プロジェクト担当者に心変わりがあったのかな~?」
「・・・小林君、あなた今、既に答えを言っているわよ!!」
「えっ!??」
                     後半につづく

【登場人物】
明智(明智龍之介)― しあわせ監査法人在籍8年目の公認会計士。現場では主に主査(いわゆる監査の現場監督者)を担当している。
今井(今井 京子)― しあわせ監査法人在籍8年目の公認会計士。明智とは公認会計士試験の受験時代からの知り合いで、同期にあたる。
小林 (小林新一) ― しあわせ監査法人在籍1年目の新人会計士。

※1 期末日時点で、予定販売価額よりも仕掛品残高の金額が大きい場合、その超過部分は予定販売価額では回収できない原価となります。つまり、翌期以降に予定販売価額で当該仕掛品(販売時には製品)を販売すると、当該超過部分だけ販売損失が計上されることになります。そのため、将来の損失に備えるため、当期末において、当該超過部分に対して引当金を計上することがあります。なお、効果的には棚卸資産に低価法を適用した場合と同じになります。

2008年04月号

【企業探訪】[7]「適用間近!! 改正リース会計基準」

「明智君、久しぶり!! 最近見かけなかったけど、元気にしてた?」
監査法人事務所で作業をしていた明智に声を掛けたのは、同期の今井京子である。
「あぁ、今井か~。そう言えば久しぶりだね。そっちこそ元気にしているの?」
「そうね~。・・・。そうだ!! ちょっと相談があるんだけど、今、時間いい?」
「・・・なんかイヤな予感がする。」
「まあ、そう言わずに。リース会計のことなんだけどね。来年度から改正リース会計基準が適用(※1)されるじゃない。明智君の担当しているクライアントでは準備が進んでいるのかな~、なんて話なんだけど。」
「ん~、その話か~。オレが担当している会社は大丈夫!! と言いたいところだけど、ちょっと大変な会社があるんだよね。会社の設備がほとんどリースだし、工場、支店もたくさんあるからね。この間、経理部長との話の中でちょうどリース会計の話題が出たんだけど、『実物管理が全くできていません!! わはははは~。』なんて打ち明けられちゃったよ。ダメ出ししておいたけど。」
「そうなんだ~・・・。どこも悩むところは同じなのね。実は、私の行っているクライアントも実物管理が全くできていないのよ!! 契約書をベースに早急に棚卸をして下さいとは伝えたんだけど、その契約書の管理もできていない状態。もうっ、イヤになっちゃうわ!! 近々リース会社と打ち合わせて対策を練るらしいんだけど・・・・大丈夫かしら。」
「契約書管理か~。それも重要だよね~。それから、今回の改正で、所有権移転外ファイナンスリース取引について、賃貸借処理が基本的に認められなくなったでしょ。これからは、原則、売買処理をしていかなきゃいけないから(※2)、現在価値基準でリース取引を判定したり、リース料総額から利息相当額を控除したり、利息相当額は利息法によって毎期計上していかなければならないし・・・。はぁ~、今、考えただけでもうんざりしてくるね。」

「あっ、今井さんだ! お久しぶりですっ!! 」
「あら!! 小林君じゃないの。どう、がんばっている? 明智君にいじめられたらいつでも相談にいらっしゃい。」
「はっ、はいっ!! 明智さんには常にいじめられていますので、すぐに相談に行きます!!!」
「おい、おい。オレはいじめてないぞ。」
小林君の興味は改正リース会計基準よりも別のところにあるようである。

【登場人物】
明智(明智龍之介)― しあわせ監査法人在籍8年目の公認会計士。現場では主に主査(いわゆる監査の現場監督者)を担当している。
今井(今井 京子)― しあわせ監査法人在籍8年目の公認会計士。明智とは公認会計士試験の受験時代からの知り合いで、同期にあたる。
小林 (小林新一) ― しあわせ監査法人在籍1年目の新人会計士(補)。

※1 平成20年4月1日以後開始する事業年度から適用。

※2 従来のリース会計基準では、所有権移転外ファイナンスリース取引について、一定事項の注記をすることを条件に、賃貸借処理を認めていました。改正リース会計基準では、一定の条件を満たす所有権移転外ファイナンスリース取引のみ、賃貸借処理が認められることになりましたので、この条件を満たさない所有権移転外ファイナンスリース取引は売買処理を行わなければならなくなります。

2008年03月号

【企業探訪】[6]「内部統制の限界!!? ②」

「なぁ、小林。この間の話どうなった?え~っと、明智さんだったけか?なんかいい話聞けたのか?」

「ん!? あぁ、内部統制の限界の話か~。最近、明智さん、忙しいみたいでなかなか会えないんだよね。今、別々のクライアントの監査をしているし(※1)。」

ここは、実務補習所近くのいつもの居酒屋。実務補習の講義は通常、土曜日の朝から夕方までの長時間に渡って行われる。座り心地がいいとは決して言えない椅子に長時間座り続けさせられた実務補習生は、せっかくの休日を潰された憤りと相まって、憂さ晴らしとばかりに近くの居酒屋で暴飲暴食を繰り返しては、常日頃の仕事への愚痴や不平不満を語り合うのである。

「あれから気になって、自分で色々調べて見たんだけど、実施基準によれば、『経営者が、組織内に適切な全社的又は業務プロセスレベルに係る内部統制を構築していれば、複数の者が当該事実に関与することから、経営者による不当な目的のために内部統制を無視ないし無効ならしめる行為の実行は相当程度困難なものになり、結果として、経営者自らの行動にも相応の抑止的な効果をもたらすことが期待できる。』だってさ。あと、この実施基準や他の市販されている文献を読むと、J-SOX(※2)では、全社的な内部統制の構築を非常に重要視しているんだよね。実務的には、如何に実施基準の42項目の例示をクリアできるかってことだと思うけど。神宮寺はどう思うの?」

「俺か? まぁ、構築できたらいいんだろうけどね。でも、なんせ親分を監視するって話だからさ~、なかなかどうして『しがらみ』があるのが会社ってもんだよ。極端な話、取締役会や監査役会をきちんと機能させるためには、役員総取替えってことも!!?? さらにこの全社的な内部統制ってのは、極論として、組織の在り方やそこで働く人間の問題を扱うわけでしょ。たかだか会計の専門家でしかない俺たち公認会計士に監査や評価ができるのかな~? 例えば、『貴社の取締役会は代表取締役を適切に監督・監視しているとは認められない。したがって、全社的な内部統制が有効に機能しているとは言い難い!!』なんていうわけ? おっ俺にはできんぞ、そんなこと。」

「ん~。それは『内部統制の限界』というよりも『内部統制監査の限界』のような気がするけど・・・。」

内部統制の議論は尽きないようである。

【登場人物】 【登場人物】 小林 (小林新一) ― しあわせ監査法人在籍1年目の新人会計士(補)。 神宮寺(神宮寺幸助)― こころ監査法人在籍1年目の新人会計士(補)。小林とは同期の合格者で、実務補習所では同じ班に所属している。

※1 監査法人での監査業務は、通常、クライアント単位で実施され、複数人によるチームを結成して業務にあたります。また、監査業務自体はクライアント先で行い、直接訪問・直接帰宅が日常的であるため、別々のクライアントの監査に従事している間は顔を合わすことが稀になります。

※2 金融商品取引法に基づく内部統制報告制度の俗称。

2008年02月号

【企業探訪】[5] 「内部統制の限界!!? ①」

ある土曜日の夕暮、小林君は実務補習(※1)の仲間と居酒屋で飲んでいました。 「なぁ、小林、最近お前んところの監査法人はどうだ? 仕事忙しいのか?」
「んー、まぁぼちぼちかな。近頃は内部統制監査の準備が始まってきているからね。社内研修も多くなってきたし。」 「あぁ~、内部統制か~・・・。何なんだろうな、内部統制って。小林はどう思う?」
「・・どう思うって言われてもな~。最近、粉飾決算や不正会計が多発しているだろ。アメリカではエンロンやワールドコム、日本ではカネボウやライブドアか。そうした企業の不正会計から投資家を保護するために導入されたのが内部統制監査なんだってさ。世の中の流れとしては必要なことだと思うよ。」
「ふ~ん。でもさ~、この間、うちの法人のお偉いさんが社内研修で言ってたんだけど、『皆さん、内部統制の限界なるものを知っていますかね。それは、経営者が不当な目的の為に内部統制を無視ないし無効ならしめることに対しては、内部統制は機能しないという限界です。つまり、経営者不正に対して機能しない内部統制をせっせと社内で構築・評価することによって、現在の内部統制監査制度の導入趣旨である「経営者による不正会計から投資家を保護する」ことを実現させようとしているのです。なんとも矛盾に満ちたことでしょうか。皆さんもぜひこの点について考えてみてください。』だってさ。小林はどう思う?」
小林君の体の中に電撃が走りました!!
「うそ!? ということは、そんな矛盾を孕んだ内部統制で経営者不正を防止しようとしているわけ!!? いや~、そんなことはないでしょ。だって、実施基準(※2)では組織内に適切な全社的な内部統制や業務プロセスに係る内部統制を構築していれば大丈夫みたいなことが書かれているんだから。」
「さぁね。取締役会や監査役会がきちんと機能している会社なら、おいそれと経営者が不正することなんてできそうにないけど、ワンマン社長の会社とか新興企業とかじゃ、けっこう怪しいんじゃないか。まぁ、経営者の鶴の一声で今まで積み上げた職務分掌やら承認活動やらの内部統制がすべて水の泡になるってことでしょ。なんだったら、お前のところの上司、何て言ったっけ。あーそうそう明智さんだ。彼にでも聞いてみたら?」
釈然としないまま、この日の食事は終わったのであった。

【登場人物】 明智(明智龍之介)― しあわせ監査法人在籍8年目の公認会計士。現場では主に主査(いわゆる監査の現場監督者)を担当している。
小林君(小林新一)― しあわせ監査法人在籍1年目の新人会計士(補)。

※1実務補習とは、公認会計士試験合格者に対して、一定の専門知識を習得させるため、日本公認会計士協会が主催する研修制度のことです。公認会計士として登録するためには、公認会計士試験合格後、①業務補助等(監査法人勤務などによる実務経験)を2年以上経験していること、②実務補習により一定の単位を取得し、かつ、終了試験に合格することが必要になります。

※2「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」