2008年06月号

【企業探訪】[9]「受注損失引当金の甘い罠(後編)」

「・・・と、言うわけさ~、神宮寺。」
「ふ~ん。で、わかったのか? 『受注損失引当金が状況を一変させた』っていう意味が。」
「いいや、皆目検討付かず・・・。はぁ~、それよりも、あの後、今井さんと一緒に帰ろうと思ったのにな~、あぁ~・・・。」
「何、ブツブツ言っているんだ。俺はわかっちゃったぜ!!」
「・・・途中で帰っちゃうんだもんな~、今井さん。・・あっ、何?わかったの!?」
「あぁ、しょうがないから意気消沈しているお前に特別に教えてやるよ。例えば、ここに翌期に納品されるAとBというプロジェクトが2つあったとして、2つとも当期末現在、既に不採算プロジェクトに陥っていたとしよう。つまり、期末日現在、既に予定販売価額よりも仕掛品残高の方が大きくなってしまっているというわけさ。ここで、受注損失引当金を計上しないとなると、AもBも翌期の販売時に販売損失が一気に計上されるよね。でも、仕掛品残高のうち、予定販売価額を超過する部分を引当金として計上するとなると、そこで一種の損切りができてしまうというわけよ。わかる?」
「んん・・?? それが何とどう関係があるわけ?」
「はぁ~、わからんやっちゃな~。例えば、販売時にAから利益が出るように、Aの原価の一部をBの原価に付け替えるとするだろ。そうすると、当期末には、Aからは多額の受注損失引当金が発生するけど、損失の発生はそれきりでしょ。Bに関しては営業評価が下がるかもしれないけど、翌期には、Aから販売益が出るから、それでまんまと汚名を返上できるというわけさ!! つまりっ!! AとBの両方から販売損失が出るとなると『何やっているんだ、お前は!! 2つも不採算プロジェクトを出しやがって!!』ってなるけど、受注損失引当金という損切りの方法を使えば、『Bは不採算でしたが、Aではなんとか採算が取れました!!』って言えるよね。」

「うわっ、何それ!! そんなからくりがあったなんて。受注損失引当金の計上がプロジェクト担当者に原価付け替えの動機を与えてしまうとは~。・・・んっ、待てよ。でもAとBから発生する損益をトータルで見た場合、結局、P/Lへの影響は変わんないよね(※1)。期ズレは当然するけど。」
「まぁ、会計上はそうだけど、営業評価の印象は全然違うと思うよ。」
「なんだか切ないな~。そういえば明智さんも切ない顔してたもんな~。はぁ~。」
焼酎をちびちびとやりながら、小林君は、ふと、明智の顔を思い浮かべるのであった。

【登場人物】
明智(明智龍之介)― しあわせ監査法人在籍8年目の公認会計士。現場では主に主査(いわゆる監査の現場監督者)を担当している。
小林 (小林新一) ― しあわせ監査法人在籍1年目の新人会計士。
神宮寺(神宮寺幸助)― こころ監査法人在籍1年目の新人会計士。小林とは同期の合格者で、実務補習所では同じ班に所属している。

※1 例えば、Aプロジェクト(予定販売価額200、期末日現在の仕掛品残高210)の製造原価の一部(30)をBプロジェクト(予定販売価額100、期末日現在の仕掛品残高105)に付け替えた場合、Bでは受注損失引当金が35(100-(105+30))計上され、翌期以降、Aからは20(200-(210-30))の販売利益が計上されます(Bは収益トントン)。ここで、AとBから発生する損益をトータルで見た場合、受注損失引当金を計上するしないに関わらず、15の損失が発生することになります。

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