2008年06月号

【世を読む】「社会の公器」たる企業が果たす使命と責任とは?

船場吉兆の食べ残し使い回し問題に思う、企業の存在意義とは
 消費・賞味期限のラベルを付け替えや、原材料表示の偽装を組織的に行っていた高級料亭「船場吉兆」。全4店舗は休業に追い込まれ、資金繰りが悪化、2008年1月に民事再生法の適用を申請したことは記憶に新しいと思います。
 その後、一部店舗で営業を再開したものの、今度は食べ残しの使い回しが発覚。前社長が「もったいない。利用できるものは利用しろ」と数年前より指示していたといいます。同社の役員は「営業再開後は使い回しはしていない」と取材に応じていましたが、そんな言葉は信用できません。
 ラベルを付け替え発覚後、口止めするために従業員を事実上軟禁していたというニュースが流れました、記者会見でも嘘をついて国民をだまし続けました。役員が引責辞任した後の新社長には前社長の妻が就任しました。従業員を全員解雇するというニュースも流れました(その後撤回)。こういう報道を見たときに、「この会社が社会的信用を取り戻すことはあり得ないだろう」と感じましたが、案の定、底なしの背信行為に老舗吉兆の信用は地に落ちました。
 「社会の公器」たる企業は、顧客、社員やその家族、下請企業、株主、地域社会などの利害関係者に対して使命や責任を果たすために活動するものです。船場吉兆の場合はどうでしょうか。利益を最優先する体質、一人数万円も支払う顧客に対する愚弄、身内重視の経営、あまりにも低い経営者のモラル……、法律はもとより、社会のルールも守ることができず、企業を完全に私物化した公私混同経営を行っており、社会のために存在する意義すら失っているとしか思えません。
 「事業の基は徳なり」「利の基は義なり」という中国古典の言葉があります。経営者は、この2つの言葉を憶えておいて欲しいと思います。徳のない事業は結局壊れていくことになります。利益の源泉は「義」、すなわち正しいことを行うことによって後から付いてくるものです。利益を得るために顧客や社員の信頼を失うようなことをやっていたら、仮に一時的にうまくいっても長続きはしないでしょう。自分の家族・子供にいえないようなことはやらないことです。近年相次ぐ不正や不祥事に共通するものは、「徳」のない経営者が、「信」「義」「仁」といったものを考えていないことに因るといってもよいのではないでしょうか。 それにしても、この船場吉兆のニュースを見たときに、目の玉が飛び出るような勘定の料理を食べ残す人がそんなにいるものか……という別の驚きもありました。提供者側も商売の常識を忘れていますが、数万円の食事に手を付けずに下げてくれという顧客の心理も世界的にみて非常識だと思いますけどね。

【リガヤの視点】Vol.9「Aクラスの人は、Aクラスの人と仕事をする」

シリコンバレーのビジョナリーと呼ばれる人たちの名言を集めた『ウェブ時代 5つの定理』(梅田望夫著、文藝春秋)の中に、このような言葉があります。
 『Aクラスの人は、Aクラスの人と一緒に仕事をしたがる。Bクラスに人は、Cクラスの人を採用したがる。』
 この言葉は至言だと思います。ビジネスを行っていくにあたり、例え職人さんであったとしても、自分一人の力で成しえることは限られます。松下幸之助も「自分一人ではほどほどの仕事はできても、大きな仕事はできない」と言っている通り、社内外のパートナーの情報・知識・ノウハウ・人脈等を使ったり、依存したりすることなくして、ビジネスを大きな成功させることはできません。どういったパートナーと仕事をするかということは極めて重要なことであり、自分や会社を向上させるためには、どこかの分野で自分よりも優れたものを持っている人と働くべきです。
仕事を終えてから飲みに行く人もまたしかり。世間や会社の愚痴ばかり言っているようなCクラス人間との関係は断たなければ、Aクラス人間にはなれないと思います。

【会計info】 会計士はなぜ4年で辞めるのか?

会計士はなぜ4年で辞めるのか?

城繁幸氏のベストセラー『若者はなぜ3年で辞めるのか?』(光文社新書)によると、最近の若者の3人に1人は新入社員として入社した会社を3年以内に辞めるようです。このデータには大変驚かされた方も多いと思います。しかし、私(武田)が勤務していた監査法人では、3年で辞めた者はいなかったものの、4年で辞めた者は同じ部署の同期11名中9名(82%)。当時の制度では、3年のインターンを経て、最短で入社4年目に公認会計士登録ができたことに因ります。では、なぜ会計士は4年で監査法人を辞めるのでしょうか?
 平成20年4月、日本公認会計士協会近畿会が会員の会計士へ行った『「勤務実態及び監査業務への意識」に関するアンケート結果』を公表しました。この結果発表は非常に興味深いものでした。

監査実務の実情

業務の繁忙期における平均的な1日の勤務時間は、10時間以上と答えた人が84.7%(うち、12時間以上と答えた人も49.2%)。繁忙期に休日出勤すると答えた人は84.4%。4月や10月の繁忙期においては、休日もなく、毎日残業という会計士が多いものと推測されます。私自身も繁忙期は、自宅から電車で30分程の場所にあるクライアント本社の近くにあるビジネスホテルで1週間宿泊したことがありました(チェックインは毎日午前3時以降でした)。
 仕事量と給与水準との見合いについては、「やや見合っていない」「全く見合っていない」と答えた人が全体の49.1%。ちなみに、監査法人では若くして管理職(マネージャー等)になる人が多いことから、残業代が支給されないという人が全体の54%。給与面だけみても、仕事に対するモチベーションを維持することが難しいのではないかと思われます。
 但し、繁忙期が忙しいことや、仕事量と給与水準との見合いについては、今も昔も大差はなく、会計士が監査法人を辞める大きな原因とはいえないでしょう。問題は、次の質問に対する回答ではないかと思います。「監査業務を行う中での不満足要因は何ですか」という質問に対する回答に、ここ数年の監査実務における特徴が大きく表れています。

「形式的な(調書)書類作成が多すぎる」と回答した人が78.1%、「間接業務が多い」と回答した人が63.7%、「時間に余裕がない」と回答した人が56.5%、「こなす作業が多く、時間がない」と回答した人が47.4%、と多忙過密な実情に異を唱える回答が続きますが、特に上位2つの回答を見る限り、前向きではない仕事に対して不満をもっている会計士が余りにも多いということが分かります。これは、近年、提携先の国際会計事務所が定めた様式による調書作成を求められたり、調書の電子化が進んだり、レビューが厳格化していることなどが重なり、従来からは考えられない監査調書の量と質が求められていることによります。調書を作成するためだけに休日出勤するという会計士も多いのではないかと思います。このような状況では、当然のことながら仕事に対する「やりがい」は低減することになります。「やりがい」の低下が若手会計士の現場離れの原因の一つになっていると推測されます。

監査のやりがいを取り戻せ!

会計士が監査に対する「やりがい」を失っていることは健全な証券市場の発展を考えると切実な問題として考えなければなりません。「監査業務を行う中で、公認会計士としてやりがいを感じることは何か」という質問に対する回答で、最も多かったのは「クライアントからの信頼に答えた満足感」(59.1%)でした。どんなに忙しくても、残業代が少なくても、クラアントの信頼に応えるということは監査人にとって最も嬉しいことです。
しかし、証券市場における不正や不祥事が続出したことによる業界の信頼回復に向けた一連のアクションが、監査の形式化・形骸化、監査リスクの高い業務への過剰な消極的姿勢、それに伴うクライアントへの指導的機能の抑制等につながり、会計士のやりがい低下を招いているともいえるでしょう。「人不足」を解決するために会計士試験の合格者を倍増させましたが、これでは根本的な問題解決になりません。社会のニーズに即した質の高い監査が実施されるよう、1から監査環境を整備し直さなければならない時にきているのではないでしょうか。

【経営info】Think Big!!

経営者が物事をどのように考えるかで、会社の業績、成長は大きく変わってきます。表題の「Think Big」という言葉は、「物事を大きく考えろ」という意味ですが、この短い言葉には経営者にとって不可欠な意味が込められているのです。

自分のものさしで考えない

我々は自分自身の人生経験に基づいてあらゆる判断をしています。例えば、平均的なサラリーマン家庭で生まれ育った人には同じような金銭感覚がありますよね。ランチが1000円以上だと高いと感じたり、居酒屋のビールが一杯400円だと安いと感じたりするのは、自分自身の収入や生活レベルの中でやりくりすることで身に付くからなのです。
会社が何らかの商品やサービスを提供する場合に、価格設定は非常に重要な要素になります。市場を十分に調査しても、どこか自分の常識や感覚が介入してしまうリスクは常にあるのです。ザ・リッツ・カールトン・ホテルが10万円のオムレツという企画を成功させることが出来たのも、自分のものさしではなくお客様の視点で立案したからに違いありません。

限界を作らない

100万円の1%は1万円で、5%は5万円なのは誰でも分かる話です。営業会議で利益率について協議すると、必ずこの数%について議論がぶつかり合います。「コストを下げれば6%になる」「値引きをすれば2%減だ」といった言葉を耳にすることは珍しくありません。ところが100万円を1億円にするという発言はなかなか出てこないのです。うちの会社は100万円売るのがやっとだから如何にして利益を残すかを考えるのが当然だ、という考え方では会社がそれ以上に成長するはずがありあません。5%の利益しかなくても1億売れば、500万の利益なのです。現状を真摯に捉えコストを考える事は必要なことであっても、ビジネスのボリュームそのものを大きくするという基本から離れてしまっては良い結果は望めないのです。全打席ヒットを打つという心構えの打者でも、4割は打てないのです。最初から2割5分打てれば良いと思っていたら二軍落ちするのは当たり前なのです。

あり得ないことを考える

平成7年頃、阪神大震災の前後に私ははじめて携帯電話を持つようになりました。ようやく小型化されたものの費用は7、8万円かかったのを憶えています。10年後に小学生でも携帯電話を持つ日がやってきて、携帯電話でショッピングしたり、音楽を聴けたりする時代がくるとは到底想像することは出来ませんでした。もちろん、その業界の人達は10、20年先を見据えて研究・開発されていたとは思いますが、人々が「そんなことって可能なの?」と思うようなことが時代を牽引しているのも事実なのです。「自分の会社では無理だ」と決めるのは簡単ですが、その思いが会社のすべての可能性を否定し、発展することを妨げてしまうのです。経営者たるもの社員から「社長はとんでもないことを考えているぞ」と思われるくらいの夢を持っておかなければなりません。

【Key礎Word】 監査調書

これだけは知っておきたい基礎ビジネス用語辞典
監査調書

監査計画、実施した監査手続の内容や発見した問題点、関連資料、結論などを文書化したもの。公認会計士監査の仕事(情報)のすべてとも言え、監査業務をきちんと遂行したことの証拠ともなるため、正確かつ漏れなく必要事項を書き込まなければならない。また被監査側の機密事項が含まれているので、保管場所や保管責任者の特定など、監査調書の保管には細心の注意が払われている。
2003年頃より監査調書の電子化が進んでおり、全面電子化を実施している監査法人もある。電子化されると大量の監査調書が体系化されるものの、作成に時間がかかる等のデメリットもある。

【企業探訪】[9]「受注損失引当金の甘い罠(後編)」

「・・・と、言うわけさ~、神宮寺。」
「ふ~ん。で、わかったのか? 『受注損失引当金が状況を一変させた』っていう意味が。」
「いいや、皆目検討付かず・・・。はぁ~、それよりも、あの後、今井さんと一緒に帰ろうと思ったのにな~、あぁ~・・・。」
「何、ブツブツ言っているんだ。俺はわかっちゃったぜ!!」
「・・・途中で帰っちゃうんだもんな~、今井さん。・・あっ、何?わかったの!?」
「あぁ、しょうがないから意気消沈しているお前に特別に教えてやるよ。例えば、ここに翌期に納品されるAとBというプロジェクトが2つあったとして、2つとも当期末現在、既に不採算プロジェクトに陥っていたとしよう。つまり、期末日現在、既に予定販売価額よりも仕掛品残高の方が大きくなってしまっているというわけさ。ここで、受注損失引当金を計上しないとなると、AもBも翌期の販売時に販売損失が一気に計上されるよね。でも、仕掛品残高のうち、予定販売価額を超過する部分を引当金として計上するとなると、そこで一種の損切りができてしまうというわけよ。わかる?」
「んん・・?? それが何とどう関係があるわけ?」
「はぁ~、わからんやっちゃな~。例えば、販売時にAから利益が出るように、Aの原価の一部をBの原価に付け替えるとするだろ。そうすると、当期末には、Aからは多額の受注損失引当金が発生するけど、損失の発生はそれきりでしょ。Bに関しては営業評価が下がるかもしれないけど、翌期には、Aから販売益が出るから、それでまんまと汚名を返上できるというわけさ!! つまりっ!! AとBの両方から販売損失が出るとなると『何やっているんだ、お前は!! 2つも不採算プロジェクトを出しやがって!!』ってなるけど、受注損失引当金という損切りの方法を使えば、『Bは不採算でしたが、Aではなんとか採算が取れました!!』って言えるよね。」

「うわっ、何それ!! そんなからくりがあったなんて。受注損失引当金の計上がプロジェクト担当者に原価付け替えの動機を与えてしまうとは~。・・・んっ、待てよ。でもAとBから発生する損益をトータルで見た場合、結局、P/Lへの影響は変わんないよね(※1)。期ズレは当然するけど。」
「まぁ、会計上はそうだけど、営業評価の印象は全然違うと思うよ。」
「なんだか切ないな~。そういえば明智さんも切ない顔してたもんな~。はぁ~。」
焼酎をちびちびとやりながら、小林君は、ふと、明智の顔を思い浮かべるのであった。

【登場人物】
明智(明智龍之介)― しあわせ監査法人在籍8年目の公認会計士。現場では主に主査(いわゆる監査の現場監督者)を担当している。
小林 (小林新一) ― しあわせ監査法人在籍1年目の新人会計士。
神宮寺(神宮寺幸助)― こころ監査法人在籍1年目の新人会計士。小林とは同期の合格者で、実務補習所では同じ班に所属している。

※1 例えば、Aプロジェクト(予定販売価額200、期末日現在の仕掛品残高210)の製造原価の一部(30)をBプロジェクト(予定販売価額100、期末日現在の仕掛品残高105)に付け替えた場合、Bでは受注損失引当金が35(100-(105+30))計上され、翌期以降、Aからは20(200-(210-30))の販売利益が計上されます(Bは収益トントン)。ここで、AとBから発生する損益をトータルで見た場合、受注損失引当金を計上するしないに関わらず、15の損失が発生することになります。